上方漫才大賞奨励賞に寄せて
M-1後から、ルミネtheよしもとでの舞台が多くなった。関西ローカルで生放送のレギュラー、ロケを多数抱える銀シャリは、関東と関西の往復が途端に増えた。
VTRのみ、5分くらいの出演だが、そのVTRを毎週5本用意することは大変だ。
18時までMBSで生放送に出演した後、そのまま翌週分のロケを敢行する。急にカメラを自宅に入れることを受け入れてくれる人は少なく、夜遅くまでロケが続くこともある。
隔週で『銀シャリの炊きたてふっくらじお』という冠ラジオの収録も行う。
橋本さんは『探偵!ナイトスクープ』の探偵としての仕事もある。全国から依頼が来るので、『探偵!ナイトスクープ』で1日が潰れることもある。
鰻さんはABC『おはよう朝日です』というニュース番組の金曜日レギュラーだ。『おはよう朝日です』は6時45分放送開始。木曜日に関東で夜の公演をこなして、終電で帰ることもある。寝坊が怖いから、とABCに泊まって放送に挑む日もあるそうだ。
1日を費やしたロケが、放送では15分程度のこともあった。銀シャリは自分たちの出演番組を録画するので、打ちひしがれたこともあったのではと想像してしまう。
「もう(大衆向けの)ネタがない」、「ロケ死する」。最近の銀シャリは、そんなことをよく口走っていた。
しかし銀シャリは、新ネタ作りにも余念がない。月に1度、新ネタを披露するライブ『新米寄席』が大阪で行われている。
『新米寄席』でのお客さんの反応を見たり、アンケートを読んだりして、よしもと漫才劇場やルミネtheよしもと、定期的に東京で行われる『うなちゃんなおちゃんのごきげんライブ』でネタを育てていく。
『うなちゃんなおちゃんのごきげんライブ』では、ゲストの芸人さんが鰻さんの描いた似顔絵Tシャツを着ることが恒例になっている。つまり鰻さんは、漫才やロケの合間に、絵を描く時間も作らないとならない。
「疲れている!」。最近の銀シャリを観て、真っ先に思うことだった。
橋本さんの声がガラガラになったり、鰻さんの笑顔がくたびれたりしていた。
鰻さんに「タバコの差し入れをさせてください」とお願いしたら「そんなお気遣いはいいですよ」と断られそうになったが、「だって最近、疲れてるじゃないですか!」と押し切った。
鰻さんは「ファンにバレてるようじゃ、ダメですね」と微笑んでくれた。
『新米寄席』で練っている新しいネタは披露しなかった。
“だからこそ”銀シャリは奨励賞を受賞できたのだと思う。
様々なステージで、様々な客層を笑わせてきた“いつものネタ”だからこそ、「正統派漫才師」のイメージが強い銀シャリは会場で笑いを取ることができた。
多種多様なロケに挑む銀シャリだからこそ、老若男女を笑わせることができた。
最近の銀シャリは、つらかった。観ている私でさえ、つらかったのだ。本人の苦しみは計り知れない。
今までの努力が、「上方漫才大賞奨励賞受賞」という結果を生んだのだ。
「銀シャリの苦労が報われた!」。テレビの前で私は感激した。
受賞の瞬間、橋本さんは鰻さんに抱きついた。抱きつくというよりは、タックルに近いくらいの勢いだった。
心底嬉しかったのだろう。
昨年の奨励賞に輝いたのは、学天即だった。
2月11日に銀座で行われた橋本さんのトークショーで、「目標の芸人」の話題になった。「ブラマヨ小杉さん」、「フット後藤さん」、「やっぱり最終的にはダウンタウンさん」等の名前の中、1人だけ銀シャリよりも若手の芸人の名が挙がった。
学天即の奥田さんだった。
学天即は2014年に上方漫才大賞の新人賞を受賞。翌年2015年に奨励賞を受賞した。
橋本さんはきっと、悔しかったのだろう。
だからこそ、余計にタックルに力が入ってしまったのではないだろうか。
嬉しい。ファンとして嬉しいし、本人たちが心底喜んでいることが嬉しい。
反撃の狼煙は上がった。ここから銀シャリがどのように闘っていくのか、見届けたい。
『逆襲のシャリ』はNGKとルミネtheよしもとで開催される。あなたも一緒に、逆襲の目撃者になろうではないか。