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バッファロー吾郎A先生の『グル名刺』を読んだ

 私は舌バカだ。何を食べても「美味しい」と言い、全部平らげてしまう。小学校の給食を「不味い」というクラスメイトが信じられなかった。

 大学生になってから一人暮らしを始め、「友人と一緒に食事をする」という行為を覚えた。しかし大学生は基本的に貧乏な生き物。飲み会といえば鳥貴族、昼食を取るならサイゼリアだった。お腹が満たされればなんでもよかった。

 社会人になってからもその感覚は変わらず、行きつけの店といえばタバコの吸えるチェーン店ばかり。モスバーガーミスタードーナツ神と崇めている20代の女。

 

 もともと食に興味がない上に、昨年の10月くらいから食欲まで低下した。ウィダーinゼリーとチオビタドリンクだけの日が多々あった。「何か食べないと死ぬけれど、何かを選ぶのは面倒臭い」という状態だ。今も「卵かけご飯と納豆でも食べてたらいいでしょ」みたいな有様。そんな私が『グル名刺』を読んだのは、単純にバッファロー吾郎のファンだったからだ。『マンスリーよしもと』で一通り読んではいたが、一冊の本として、しっかりと向き合いたいと思った。

 

 A先生の思い出深い店が紹介されていくのだが、まずその思い出が面白い。バッファロー吾郎ファンとして、芸人ファンとしてたまらないエピソードがどんどん出てくる。食よりもむしろ思い出に行数が割かれている場合もある。店の雰囲気に大半が使われている場合もある。少ない行数しか使われていないはずの食に関するレビューは、A先生節が炸裂していて、「美味しかったんだな」としか伝わらないこともある。某店のチキン南蛮は「2兆7点」らしい。

 

 そして何より、紹介される店の立地が絶妙なのだ。舞台の出番の合間や、終演後に訪れることが多いのか、ルミネの近くだったり、NGKの近くだったりする店が多く紹介されている。私は方向音痴なので、新宿駅からルミネまでの行き方や難波駅からNGKまでの行き方はわかるが、すこしエリアを変えられると途端に迷子になってしまう。つまり「A先生の行きつけの店なら迷わずに行けそう」なのだ。

 「行ってみたい」と思った。食に疎い私が「行ってみたい」と思った。載っている店は全て行ってみたいのだが、取り敢えず、ルミネとNGKに近そうで、価格が比較的安そうな店に付箋を貼りながら読んだ。読み終わった後には、6色セットの真新しい付箋の紫が全部なくなり、ピンクが半分になっていた。コメダ珈琲で暇つぶしにグルメガイドを読んでも、ピンと来たことは一度もない。写真付きのグルメガイドに、名刺の画像しかない『グル名刺』が勝ったのだ。

 

 『グル名刺』は3部に分かれている。A先生が店を紹介するパート、グルメ漫画家と対談をするパート、そして漫画パートだ。漫画パートでは、筆を執ることに葛藤するA先生が出てくる。悩めるA先生はBさんと出会う。Bさんとの会話によって、A先生はいろいろなことに気付かされる。漫画の「最終話」でBさんが言うセリフ、A先生が辿り着いた結論に、目頭が熱くなる。そこに「バッファロー吾郎の本質」を見た。

 

 「グルメ」や「名刺」で人と人との絆が生まれていく。心の奥がぽかぽかし、お腹がすく。あと5周読んだら、付箋がとんでもないことになりそうだ。


 私にとってのBさんは、A先生かもしれない。