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世界の縁からこんにちは

いろんなことを書きます

あなたの代わりはあなただけ

 「POISON GRLE BANDの吉田さんが、東京で面白いイベントをしている」という噂は、関西まで届いていた。なんでも、吉田さんが相方を代えて5本漫才をするというライブらしい。私はPOISON GRLE BANDのネタが好きだし、毎回選出される5人も非常に興味深いメンバーだったので、いつか行きたいなぁと思っていた。メンバーが発表されるたび、いつか行きたいなぁと思っていた。

 2016年2月11日、ルミネtheよしもとで開催された『POISON吉田が5人と漫才』に駆けつけた。関西から駆けつけた。今回相方に選ばれたのはニューヨーク・嶋佐さん、椿鬼奴さん、スピードワゴン・小沢さん、ブラックマヨネーズ・小杉さん、そして、銀シャリ橋本直さんだった。
 「いつか」は「今」になった。「銀シャリはPOISON GRLE BANDの大ファン」ということはファンの間では有名なことだった。そんなPOISON GRLE BAND・吉田さんから声が掛かったのだ。漫才ファンとして、そして何より銀シャリファンとして、この晴れ舞台に立ち会いたかった。吉田さんが橋本さんにどんなネタを書くのか、そして橋本さんがそれをどう返すのか、観たくて仕方がなかった。今行かなくてどうするんだ!と急いでチケットを確保した。

 「洋楽」のネタだった。「吉田さんが有名な洋楽の有名なサビだけを歌えない」というネタだった。飛び跳ねて笑った。拍手笑いが収まるのを橋本さんが待たなければならない程ウケていた。サビ以外の難しい英語はスラスラと歌える吉田さんが可笑しかった。ウルサイくらいツッコむ橋本さんの顔は、とてもイキイキしていた。終演後に後列のお客さんが「銀シャリが一番面白かった」と話していて、思わずガッツポーズをしそうになった。

 面白かった。あっという間だった。もう一度観たいと思った。でも、「気持ち悪い」と思った。

 気持ち悪かった。昭和の漫才師のような青いジャケットを着た人の隣に、細身の黒いジャケットとジーンズの人が立っていることが気持ち悪かった。唇が分厚いメガネの人が下手にいることが気持ち悪かった。
 橋本さんの隣にくしゃっと笑う鰻さんがいないことが、本当に気持ち悪かった。

 吉田さんは、銀シャリに寄せたネタを書いてくれた。でもそれは銀シャリが作るネタとは違った。吉田さんがあのボケをやるから自然なのであって、鰻さんがあのボケをやるのは不自然なのだ。そんなのは鰻さんのキャラじゃない。鰻さんが漫才中に歌うことはよくあるけれど、あんな風には歌わない。そして橋本さんは、敬語で鰻さんにツッコんだりしない。

 私が楽しんだのは「POISON GRLE BAND・吉田さん」と「銀シャリ・橋本さん」のネタなのだ。各々のコンビの看板があってこそ成立するネタなのだ。私はPOISON GRLE BAND、そして銀シャリが好きなのだ。

 橋本さんの相方は鰻さんしかいないと確信した。



 私は開演前までずっと、座席に座って泣いていた。ルミネtheよしもとは私にとって思い出の場所だった。しずるの企画ライブに、大好きなコンビがゲスト出演する回があった。ちょうどコンビの1人が本を出版したタイミングだった。そのコンビは吉本に所属しているわけでもないのに、いけしゃあしゃあと終演後にロビーで本を手売りしていた。私は本を買い、サインを書いてもらった。握手をして、写真も撮ってもらった。シャッターを押してくれたのは、そのコンビの冠番組では有名なスタッフさんだった。

 キングオブコメディは解散してしまった。



 『POISON吉田が5人と漫才』の幕が上がるまで、私は泣いていた。すぐに涙は笑顔に変わった。ゲラゲラと笑いながら、吉田さんの相方は阿部さんしかいないと思った。橋本さんの相方は鰻さんしかいないと思った。

 そして、キングオブコメディ・今野さんの相方は高橋さんしかいないと思った。



 誰も、誰かの代わりにはなれないのだ。阿部さんの代わりも、鰻さんの代わりも、高橋さんの代わりもいない。







 「私なんかいなくてもいい」という考えが脳をたびたび過ってしまう。でも、もしかしたら、私の代わりも、誰もいないのかもしれない。